本会は、日本の伝統楽器を共演楽器として声楽家が歌う新しい日本の歌の創作、普及を図ることを事業の中心に据え、日本の歌の発展に寄与すると同時に、会員相互の交流、研鑽を重ねることを目的とする団体です。
ご承知のように、明治以来、日本の音楽教育は西洋音楽を取り入れ、洋楽による音楽教育を実践してきました。それは、今日、素晴らしい実を結んでいます。一方、私達日本人が、それまで培ってきた従来の日本音楽は、同じ音楽でも何か別のものとして遠い存在になってしまいました。一般の人々にとって伝統邦楽は、時々耳にする特別なものとなり、それすらも年々減りつつあります。
ところで、私達が邦楽器の音を耳にする時、その音からは様々なイメージが飛び込んできます。そして私達に、日本人の心、アイデンティティを呼び起こしてくれます。長い間培い育てあげてきた、日本人の心を表現する邦楽器を共演楽器とし、洋楽の歌手が歌う現代の唄物=新しい日本の歌の創作を行うこと、それはまさに東西文化の融合であり、東から西へ、日本から世界への文化の発信といえるでしょう。申すまでもありませんが、これらの作品は伝統楽器を使って演奏する声楽曲で、邦楽曲ではありません。
現在、日本には、洋楽出身の作曲家達を中心に、伝統楽器を用い、邦楽家と一緒に創作演奏活動を行っている団体がいくつかあります。しかし、現代邦楽を創作、演奏している個人、団体の作品の九割以上は器楽曲で、声楽曲はほとんどありません。明治以来、学校教育の中で忘れ去られてきた邦楽とその歌の再生は、私たちに忘れてはならない大きな課題として横たわっています。
幸いなことに、現在、若い邦楽家のジャンルに捕われない創作、及び演奏活動には実に目を見張るものがあります。そんな邦楽家達と手を携えて行ければ「邦楽器とともに」の将来は、器楽中心の現代邦楽が、分かっていながら手を付けることが出来なかったもう一つの世界=「うたもの」の確立に大きく貢献することと確信しています。